地震で工場が壊れたのだから、基準を割っていてもしばらくは大目に見てもらえる——そうはなっていません。認証工場も指定工場も、設備と人を基準どおりに保つ義務は7月28日を挟んで変わらず続いています。割ったままなら地方運輸局長は改善命令を出せますし、命令に違反すれば3か月以内の事業停止と認証の取消しまで法令上は可能です。
九州運輸局が7月30日、この義務を猶予する措置を管内の運輸支局に示しました。壊れたままでも認証と指定を続けられます。ただし猶予は被災した工場に自動で付くものではありません。対象になるのはどこまでの事業場で、猶予を受けるためにどのような申請が必要なのか。
出たのは、令和8年7月30日付けの「九運技整第180号」。九州運輸局自動車技術安全部長から管内各運輸支局長にあてた通達です。支局に扱い方を指示する文書で、事業者向けには同じ表題のお知らせが九州運輸局のサイトに出ています。
通達は冒頭で理由をこう書いています。
令和8年熊本地震により、整備工場が甚大な被害を受けた地域については、今後、事業再開への取り組みが順次行われるものと思われますが、様々な問題により整備工場として設置義務等のある設備又は要員を維持することができず、早期の事業再開が困難な状況にあることが思慮されます。
そのうえで、事業再開に時間がかかれば被災地が点検整備と車検整備の空白地域になり、住民の移動の確保と環境保全が損なわれるおそれがある、と続きます。措置は2つです。1つめは設備と要員の維持義務の猶予、2つめは指定工場が別の指定工場の完成検査場を共同使用できるようにすることです。
通達には、自動車整備振興会九州連合会の会長あてにも別添のとおり通知した、と書かれています。振興会経由でも案内が回っているはずなので、会員なら所属の振興会にも当たってみてください。
猶予の対象は、通達の言葉でこうなっています。
令和8年熊本地震により被災した整備工場のうち、災害救助法の適用を受けた地域内に事業場を有する自動車特定整備事業者又は指定自動車整備事業者
条件は2つです。地震で被災していること。そのうえで、事業場が災害救助法の適用を受けた市町村の中にあること。被災の程度は問われませんが、被災していない工場は入りません。
災害救助法が適用されたのは21市町村です。適用日はいずれも令和8年7月28日。内訳は熊本市、八代市、水俣市、山鹿市、菊池市、宇土市、上天草市、宇城市、天草市、合志市、下益城郡美里町、菊池郡大津町、菊池郡菊陽町、阿蘇郡西原村、上益城郡御船町、上益城郡嘉島町、上益城郡益城町、上益城郡甲佐町、八代郡氷川町、葦北郡芦北町、葦北郡津奈木町です。
被災した自社の事業場がこの中にあれば、認証工場(自動車特定整備事業者)でも指定工場(指定自動車整備事業者)でも、1つめの措置の対象に入ります。2つめの完成検査場の共同使用は、指定工場だけが使えます。
| 設備・要員の維持の猶予 | 完成検査場の共同使用 | |
|---|---|---|
| 認証工場(自動車特定整備事業者) | ○ | - |
| 指定工場(指定自動車整備事業者) | ○(検査用作業機械を除く) | ○ |
なお、九州運輸局が支局に示したこの取扱いは、令和8年熊本地震で災害救助法の適用を受けた地域に限られます。他の地域や他の災害には及びません。
猶予を受けるための手続きは、通達の1.(2)に1文で書かれています。
事業者のうち、設備等の維持の猶予措置を希望する場合は、事業場ごとに様式1の「申立書」を運輸支局長あてあらかじめ届け出ること。
動くのは事業者の側です。猶予を希望する事業者が自分から申し立てます。複数の事業場を持っていても、1通にまとめる様式ではありません。届け出は事業場ごとです。
様式1は九州運輸局のお知らせページから Word ファイルで配布されています。中身は2種類で、認証工場用と指定工場用が1つのファイルに入っています。宛先は「○○運輸支局長 殿」で、頭書きに書くのは事業者の氏名または名称、事業場の名称(認証工場は認証番号、指定工場は指定番号)、事業場の所在地です。所在地の欄には「仮設等により一時的に移転の場合はその所在地」と添え書きがあります。仮設で動いている工場は、その所在地を書きます。
本文は認証工場用がこうです。
令和8年熊本地震により被災し、下記のとおり道路運送車両第80条に規定する認証基準を維持できなくなっていますが、早期改善に努めますのでご配慮の程よろしくお願いします。
記載する項目は4つ。屋内作業場および車両置場の不備状況(天井の高さを含む)、整備用作業機械の不備状況、工員の不備状況、そして基準適合予定日です。それぞれの欄には「作業場の維持ができていない状況を記載」「作業用機械の維持ができていない状況を記載」「工員の維持ができていない状況を記載」と記入例の注記が入っています。写真や被害証明の添付を求める記述は、通達にも様式にもありません。
指定工場用は、認証基準ではなく指定基準が根拠になり、括弧書きが1つ増えます。
指定工場用の様式1は、こう書かれています。
令和8年熊本地震により被災し、下記のとおり道路運送車両第94条の2に規定する指定基準(検査用作業機械を除く)を維持できなくなっていますが、早期改善に努めますのでご配慮の程よろしくお願いします。
猶予されるのは屋内作業場・車両置場、整備用作業機械、工員です。不備状況を書く欄は認証工場用と同じ3つで、検査機器の欄はありません。基準適合予定日の欄は認証工場用と同じくあります。検査用作業機械——指定基準が備えろと言っている検査の設備、ブレーキ・テスタや前照灯試験機など——は、この申立書の対象から外れています。
この括弧書きがあるので、猶予は検査ラインが動かないままの検査を認めていません。検査ラインが動かない指定工場は、2つめの措置で別の指定工場の完成検査場を使います。
申立書を出したあと何が起きるかは、通達の1.(3)と(4)に書かれています。
1.(2)の届け出を受けた運輸支局長は、申し立て内容について聞き取りを行い、猶予が必要と判断(別紙参照)した場合には様式2の「猶予措置事業者台帳」を作成すること。
運輸支局長が定める猶予期間は月単位とし、届出日から1年以内を原則とするが、被災地域の復興状況に応じ、猶予期間の延長できるものとする。
届け出たあとに支局からの聞き取りがあり、支局長が必要と判断してはじめて台帳に載ります。期間は月単位で、届出日から1年以内が原則。被災地域の復興状況に応じて、支局長が延長できます。
猶予が必要かどうかは、支局長が「別紙」の基準で判断します。この別紙は事業者向けには公開されていないので、申立書に何を書けば通るのかは支局の整備部門に確かめてください。
猶予期間中に何が起きるかは、通達の1.(5)にあります。
運輸支局長は、基準を猶予した事業場に対し、十分な猶予期間を経た後に立ち寄る等により、特定整備の実施状況や基準猶予の状況確認を行うとともに、基準適合に向けた指導を行いその旨を様式2へ記載すること。
届け出て終わりではありません。支局が立ち寄り、指導を行った旨が台帳に残ります。
届け出るまでの間は猶予がなく、基準を割った状態がそのまま残ります。
2つめの措置は、通達の2.(2)にあります。
被災により完成検査場の使用が困難となった事業場においては、別の指定自動車整備工場の完成検査場を共同使用する事ができる。
対象は、被災した整備工場のうち、災害救助法の適用地域内に事業場を持つ指定自動車整備事業者です。使えるのは、被災によって自分の完成検査場を使えなくなった事業場です。届出は、通達が「共同使用通達」と呼んでいる別の通達に沿って行います。
検査設備の共同使用そのものは、災害と関係なく平時からある仕組みです。2つ以上の事業場で使う検査設備は、管理の仕方や置き場所が要件を満たしていれば、それぞれの事業場の設備として扱えます。要件は6つです。
新しく指定を受けるときは、これに加えて4つの書面を申請書に添えることになっています。管理責任者の氏名・維持管理体制・所在地、共同使用する相手の名称と直近3か月の月平均の車種別整備実績、共同使用の契約書の写し、車両置場の位置と面積です。借りる相手との契約書が要るのは、上の要件にも出てきます。ただし、被災した工場が出す届出に何を添えるかを決めているのは共同使用通達のほうなので、そこは支局に確かめてください。
通達は、届出を受けた支局長に対して被災状況を勘案して可及的速やかに対応するよう求めています。そして、こう続きます。
このとき、共同使用通達によらない取扱いが必要な場合等にあっては、運輸局整備課あてに事前に相談すること。
平時の共同使用の枠に収まらないときは、支局が九州運輸局の整備課に事前相談します。借りられそうな指定工場との距離や、相手の設備の能力が自社の整備量に見合うかで通常の要件を満たせそうにないなら、その事情を支局に伝えてください。整備課へ上げるかどうかは支局が判断します。
申立書の提出先は運輸支局長です。熊本県内の自動車整備関係事務は熊本運輸支局が県全域を受け持っています。
| 熊本運輸支局 本庁舎 | 〒862-0901 熊本市東区東町4-14-35 |
| 整備部門(自動車の整備、検査など) | 096-369-3130(音声ガイダンスにて「2」) |
| 自動車整備関係事務の受付 | 平日8時30分〜17時15分(12時〜13時を除く) |
| 九州運輸局 自動車技術安全部 整備課 | 092-472-2539(代表・音声ガイダンスにて「3」) |
様式1 のダウンロードと通達の本文は、九州運輸局のお知らせ「令和8年熊本地震により被災した自動車整備事業者の取扱いについて」にあります。
なお、車両側の措置として、熊本県に使用の本拠を置く車の車検の有効期間を8月31日まで伸長する発表が7月29日に出ています。工場側の猶予とは別の制度なので、対象の見分け方は【令和8年熊本地震】熊本県の車は車検が8月31日まで伸長をご覧ください。
被災した車をどうするかの手続きは抹消登録と自動車税の減免を、業界から出ている無料整備や相談窓口は業界から出た支援をご覧ください。