熊本県内には、停電しても給油を続けられるガソリンスタンドが312箇所あります。自家発電設備を備えた「住民拠点SS」です。国が整備を進めてきたもので、きっかけは10年前の熊本地震でした。
ところが今回、その営業状況を伝えるはずの国のシステムに、熊本県のデータが1件も入っていません。店の場所と電話番号は引けます。今そこで入れられるかどうかだけが、分からないままになっています。
では今日はどこで給油できるのか。312箇所が県内のどこに何箇所あるのかと、運営会社が出している7月30日夜時点の営業状況を順に見ていきます。
資源エネルギー庁は住民拠点SSをこう定義しています。
住民拠点サービスステーション(住民拠点SS)は、自家発電設備を備え、災害などが原因の停電時にも継続して地域の住民の方々に給油できるガソリンスタンドです(※)。(※)災害によるSSの設備の損壊その他の停電以外のやむを得ない事由により、給油を行うことができない場合があります。
始まりは10年前の熊本地震です。全国石油商業組合連合会(全石連)は次のように書いています。
平成28年4月の熊本地震において、災害時における燃料供給拠点としてのSSの役割が再認識されました。このため国は、自家発電機を備え、災害時に地域の燃料供給拠点となる「住民拠点SS」の整備を進めています。住民拠点SSは全国に15,000ヵ所整備される予定です。
整備は進みました。2026年3月31日時点で、全国約30,000箇所のSSのうち14,215箇所が住民拠点SSになっており、当初掲げられた15,000箇所という目標に対して95%まで積み上がっています。10年かかりました。
熊本県内の312箇所は49市区町村に分かれています。10箇所以上あるのは次の9市区です。
| 市区町村 | 箇所数 |
|---|---|
| 天草市 | 23 |
| 八代市 | 22 |
| 熊本市南区 | 21 |
| 熊本市東区 | 20 |
| 熊本市北区 | 17 |
| 宇城市 | 17 |
| 玉名市 | 14 |
| 熊本市中央区 | 13 |
| 山鹿市 | 11 |
熊本市は5区の合計で79箇所です。県内の4分の1が市内にあります。震度7を観測したのは宇城市と氷川町ですが(気象庁、7月28日16時27分発生、マグニチュード7.1、深さ16km)、同じ震度を観測した2つの市町でも箇所数は大きく開いていて、宇城市の17に対して氷川町は2です。
町村部はどこも1桁台にとどまります。上益城郡では益城町3・御船町2・嘉島町2・甲佐町1、阿蘇郡では西原村3・南阿蘇村4・高森町3・南小国町2・小国町2・産山村2、球磨郡では湯前町・水上村・相良村・五木村・球磨村がそれぞれ1です。停電が長引いたとき、町の中に選択肢は1〜数箇所しかありません。1箇所しかない町では、その1軒が止まれば町外へ出ることになります。
九州の他県は福岡466・佐賀142・長崎195・大分228・宮崎201・鹿児島412です。熊本は福岡と鹿児島に次ぐ3番目です。
住民拠点SSの位置は資源エネルギー庁の「住民拠点サービスステーション等検索」で調べられます。
https://www.enecho-ss.meti.go.jp/b/enecho/
登録もアプリも要りません。キーワード欄は住所・駅名・SS名の3種類で引けます。地図にピンが立ち、左側の一覧に店名・住所・電話番号が並びます。絞り込みでは「住民拠点SS」と「北海道地域サポートSS」を選べます。熊本県のピンは7月30日22時時点で正常に表示されます。
このシステムは平時の地図としても使えますが、本来の役割は災害時にあります。資源エネルギー庁の説明はこうです。
平時には地図サービスとして活用できるほか、震度5強以上の地震発生時等の場合には、資源エネルギー庁が運営する災害時情報収集システムで収集した住民拠点SS等の営業状況等を当該都道府県単位で地図上に表示し、お近くの住民拠点SS等の営業状況等を確認することができます。
絞り込みの「災害による営業状況」を使うと、熊本県では営業可0件・営業不可0件・確認中0件になります。「全て」に戻すとピンは復帰します。絞り込み機能そのものは動いています。入っていないのは営業状況のデータです。サイドバーの「災害発生中のエリアから探す」には、九州・沖縄というカテゴリが置かれていません。いずれも7月30日22時時点の状態です。
営業状況は自動では集まりません。集めるのは「災害時情報収集システム」で、SS側が報告することで動きます。資源エネルギー庁は住民拠点SSの事業者に対し、自家発電設備の点検を年2回行うことと、毎年10月頃の「災害時情報収集システムの報告訓練」への参加を求めています。
自家発電設備の整備と、営業状況を集めて配る運用は、こうして別々に動きます。前者は熊本県内312箇所として現に存在します。後者が今回まだ地図に届いていません。
熊本県内で住民拠点SSを運営する会社のうち、南国殖産・肥後石油・エムロードの3社が地震後の営業状況を自社サイトで公開しています。更新の粒度と書き方は3社で違います。
以下はすべて7月30日夜の状態です。営業状況は数時間で変わります。向かう前に各社のページで最新を見てください。
南国殖産カーライフ事業部は「地震災害の影響に伴う臨時休業・営業状況のお知らせ」を1ページにまとめ、更新時刻を見出しに書いています。7月30日21時45分更新の内容です。
**この一覧は同社の県内20店舗すべてで、住民拠点SSに限りません。**同社の住民拠点SSは11箇所で、資源エネルギー庁の一覧と突き合わせると次のようになります。停電が続いている地域では、自家発電のある店かどうかで結果が変わります。
| 状態 | 店舗(所在地) | 住民拠点SS |
|---|---|---|
| 営業中 | ENEOS Enejet 熊本インター(熊本市東区御領8-4-70) | ○ |
| 営業中 | ENEOS Enejet 広崎(上益城郡益城町広崎788-1) | ○ |
| 営業中 | ENEOS Enejet 大津(菊池郡大津町引水943-1) | ○ |
| 営業中 | ENEOS Enejet 川尻(熊本市南区野田3-12-21) | ○ |
| 営業中 | ENEOS Enejet 西原(阿蘇郡西原村布田1035-3) | ○ |
| 営業中 | ENEOS Enejet 人吉錦町(球磨郡錦町西185-18) | ○ |
| 営業中 | apollostation 水俣エコパーク前(水俣市港町3-1-26) | ○ |
| 営業中 | ENEOS Enejet 熊本空港インター(熊本市東区佐土原1-14-40) | |
| 営業中 | ENEOS Enejet 保田窪(熊本市東区保田窪本町13-31) | |
| 営業中 | apollostation 人吉インター(人吉市鬼木町703-2) | |
| 休業中 | ENEOS Enejet 城南バイパス(熊本市南区城南町阿高古川152-3) | ○ |
| 休業中 | apollostation 城山上代(熊本市西区上代4-12-30) | ○ |
| 休業中 | ENEOS Enejet 釈迦堂(熊本市南区富合町釈迦堂630) | ○ |
| 休業中 | ENEOS Enejet 八代臨港線(八代市中片町513-1) | ○ |
| 休業中 | ENEOS Enejet 阿蘇南(菊池郡大津町大林1380-3) | |
| 休業中 | ENEOS Enejet 桜木(熊本市東区桜木6-2-1) | |
| 休業中 | ENEOS 南熊本(熊本市中央区南熊本2-7-10) | |
| 休業中 | ENEOS 嘉島(上益城郡嘉島町井寺3166) | |
| 休業中 | apollostation 宇土セントラル(宇土市北段原町39) | |
| 休業中 | ENEOS Enejet 八代インター(八代市東片町291-3) |
営業中と休業中はちょうど10店舗ずつで、住民拠点SS 11箇所の内訳は営業中7・休業中4です。つまり停電に備えた設備を持つ店の3分の1強がこの時点で止まっていたことになり、自家発電があっても燃料そのものが届かなければ動けないという当たり前の制約が、そのまま数字に出ています。同社は「今後も余震や物流の乱れにより、臨時休業や油種限定での営業となる店舗が発生する可能性がございます」と添えています。
肥後石油は日ごとに営業案内を更新しています。7月30日には燃料が入荷し、南熊本SS・新屋敷SS・浜線SS・近見SSが営業を再開しました。翌31日の案内も同じ日のうちに出ています。同社の住民拠点SSは県内9箇所で、この4店はいずれもそこに含まれます。
近見SSを除く店舗は、31日は午前8時以降の営業予定です。近見SSは24時間営業のため、燃料在庫がある限り営業を続けます。同社は同じ店舗を「近見SS」「近見セルフSS」と両方の書き方で告知しています(新屋敷SSも同様)。ただし条件が付きます。
燃料の在庫状況によっては、タンクローリーによる燃料入荷後の営業開始と変更になる可能性がございます。
営業開始後は緊急車両の給油を最優先とする、とも書かれています。混雑については、営業再開直後は敷地内でスタッフが誘導するので指示に従ってほしい、と呼びかけています。
エムロードは店舗単位で投稿する形です。1ページに集約されていないぶん、油種と給油制限まで踏み込んで書かれていて、レギュラーは入ったがハイオクは切れているといった、店頭に立たないと分からない粒度の情報がそのまま出ています。同社の住民拠点SSは県内10箇所です。
次に引く日赤通りSSはそこに含まれず、松橋SSは含まれます。停電が続く地域で選ぶなら松橋SS側です。Dr.Drive日赤通りSS(熊本市中央区帯山7-21-17)は30日にこう書いています。
レギュラーガソリン入荷しましたので、営業再開します。昼12時半頃より開店します。給油制限がございます。尚、ハイオクは在庫切れです。軽油に関しては制限はございません。尚、固定電話が繋がりにくい状態にありますのでご了承ください。
同じ日のDr.Drive松橋SSも、レギュラー入荷による営業開始とハイオク売り切れを伝えています。あわせて場内徐行・前詰め停車・給油の準備(アプリやカード、現金)を求め、この日の営業は給油のみと書いています。
7月30日夜の時点で、南国殖産のENEOS南熊本給油所は休業中、肥後石油の南熊本SSは営業再開です。別会社の別店舗なので、地名だけで判断すると取り違えます。店名と運営会社の両方で確認してください。
在庫と油種の状況は店舗ごとに違います。肥後石油の近見SSは7月29日、レギュラーガソリンが一時的に在庫切れになりました。給油対象は軽油を燃料とする緊急車両のみに絞られ、一般車両の給油は見合わせています。同社は同じ29日に、地震直後からの需要が予測を超えてレギュラーガソリンが切れたと告知しました。納入予定も未定でした。
エムロードの2店舗も、レギュラーは入荷したがハイオクは在庫切れ、という状態でした。軽油には制限がかかっていません。ハイオク指定車で向かうなら、店舗の投稿で油種まで確認してから動く必要があります。
資源エネルギー庁も、検索システムの表示と実態がずれうることを注記しています。
(※)在庫不足による営業停止が発生する等、上記ホームページで表示される営業状況と実際の状況に相違が生じる可能性がありますので、あらかじめご了承ください。
営業状況の表示が復旧した後も、この注記は効き続けます。地図上で営業可となっている店舗が在庫切れで止まっていることはありえます。
住民拠点SSの検索システムは災害が起きていなくても使えます。自宅・職場・工場の住所を入れて、近くの住民拠点SSの店名・住所・電話番号を控えておく作業は、今日できます。
資源エネルギー庁は全国の一覧をExcelとPDFでも公開しています。
停電すると基地局の非常用電源も有限なので、通信が不安定になります。地図サイトを開けないまま給油先を探す状況を想定するなら、自分の県のページだけでも抜き出してスマートフォンや車載端末に落としておくほうが確実です。落としておけば圏外でも読めます。
SSを運営する側の読者に向けては、資源エネルギー庁が2つの依頼を出しています。自家発電設備が災害時に正常に稼働するよう平時から点検し、年2回は稼働確認を行うこと。そして毎年10月頃の「災害時情報収集システムの報告訓練」に必ず参加すること。営業状況が地図に出るかどうかは、この報告の積み重ねで決まります。
住民拠点SSという制度は、2016年の熊本地震で燃料供給拠点としてのSSの役割が見直されたところから始まりました。設備は10年かけて全国14,215箇所まで積み上がり、熊本県内でも312箇所が動ける状態にあります。筆者は、今回の営業状況の空白がそのまま次の改善材料になると考えます。熊本県の営業状況が検索システムに反映されるかどうか、整備士オンラインは引き続き見ていきます。
地震そのものへの備えと、運転中に被災したときの動き方は「【緊急防災ガイド】熊本で最大震度7の地震が発生―車を運転中に被災したらどう動く?適切な対処法と避難ルール」にまとめています。EVの充電については、4社が熊本県内91拠点を無償開放している「熊本地震でEV充電器が無料開放、熊本県内91拠点」を参照してください。
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