地震で壊れた車の修理費は、車両保険からは支払われません。車両保険は地震・噴火とこれらによる津波を免責にしているからです。日本損害保険協会は7月29日、令和8年熊本地震の案内でこの原則をあらためて示しました。
出るのは、地震の特約を付けていた契約だけです。ただしその特約は、修理費を払うものではありません。車両保険と同じ基準で「全損」を判定するものでもありません。証券のどこを見れば分かるのか、実際に払われるのはどういう壊れ方をしたときか。協会と大手各社が出した案内から順に整理します。
日本損害保険協会は自動車保険と傷害保険を名指しして、「原則として地震、津波による損害は補償の対象となりません。ただし、地震や津波による損害を補償する特約が付帯されている場合は保険金をお支払いいたします」と案内しています。
各社の商品ページも書き方は同じです。三井住友海上が「車両保険では、『地震・噴火またはこれらによる津波』によって発生した損害について、車両保険金をお支払いしません」と書く一方、SBI損保は「地震は一度にきわめて巨大な損害を発生させる可能性があり、かつ発生を予測することが困難なためです」と理由まで添えています。
対象から外れるのは自分の車の損害だけではありません。ソニー損保は「地震によって直接生じたお車の損害や相手方への賠償は、自動車保険では補償されません」としています。同社の表では、車両保険が一般型でもエコノミー型でも、車両保険を付けていない契約でも、対人・対物賠償まで同じ扱いです。
各社が免責の範囲を書くときの言い回しは「地震・噴火またはこれらによる津波によって生じた損害」で、ソニー損保はこれを「地震を直接の原因とする損害」と言い換えています。地震のあとに起きた個々の事故がここに当たるかどうかは、車の状態を保険会社に見てもらう以外に確かめようがありません。
| 保険会社 | 特約の名称 | 支払額 | 付けられる契約 |
|---|---|---|---|
| 東京海上日動 | 地震・噴火・津波危険車両全損時一時金特約 | 50万円 | トータルアシスト自動車保険の選べる追加特約 |
| 損保ジャパン | 地震・噴火・津波車両全損時一時金特約 | 50万円 | 車両保険とセットで契約 |
| 三井住友海上 | 地震・噴火・津波「車両全損時定額払」特約 | 50万円 | 車両保険(一般補償)を契約する場合 |
| あいおいニッセイ同和損保 | 地震・噴火・津波「車両全損時定額払」特約 | 50万円 | 車両保険(一般補償)をセットした契約 |
| アクサ損害保険 | 地震・噴火・津波危険「車両全損時一時金」特約 | 50万円 | 一般車両保険または「車対車+A」車両保険 |
いずれも車両保険金額が50万円未満のときは、その車両保険金額が支払額になります。修理費の実額は関係しません。受け取るのは車の所有者ではなく、証券に記載された記名被保険者です。東京海上日動・アクサ損害保険・損保ジャパンの3社がそろって明記しています。
この表は2026年7月30日時点で各社が公開している商品ページの内容です。特約の名称・支払額・付けられる条件は改定されます。契約している会社の最新の商品ページか、手元の証券で確かめてください。
扱っていない会社もあります。ソニー損保は地震のガイドで「保険会社によっては、地震・噴火・津波によりお車が全損となった場合に、一時金をお支払いする特約を販売していることもあります。(ソニー損保ではこの特約を販売していません。)」と書いています。SBI損保も「地震による損害の補償を特約として販売している保険会社もあります」と他社の存在を紹介するにとどめています。証券に特約名が見当たらないとき、付け忘れとは限りません。扱いが無い会社の契約という場合があります。
アクサ損害保険は、用途車種が二輪自動車と原動機付自転車の契約には付けられないとしたうえで、「大規模地震が発生した場合など、引受を制限させていただくことがあります」とも書いており、揺れたあとに駆け込みで付ける備えとしては使えません。
現場でずれるのはここです。車両保険の全損には、修理はできるが修理費が車両保険金額以上になる経済的全損が含まれます。特約の全損にその区分はありません。
東京海上日動は「本特約における全損とは、運転者席の座面を超える浸水を被った場合等、ご契約のお車の損害の状態が約款に定める基準に該当する場合をいいます」と説明し、商品一覧にも「本特約における『全損』は車両保険における『全損』とは定義が異なります」と注記しています。三井住友海上も「この特約における『全損』は、車両保険や全損時諸費用特約等における『全損』と内容が異なります」と同じ断りを置いています。
アクサ損害保険が公開している基準は8つです。車体上部は、ルーフの著しい損傷に3本以上のピラーの折損と前後・側面のガラス損傷が重なった場合。車体側部は、2本以上のピラーとサイドシルの折損に座席の著しい損傷が加わった場合。車体底部は、左右のサスペンションとフレームが著しく損傷して走行が困難な場合です。原動機は、シリンダーの著しい損傷で始動が著しく困難になった状態を指し、電気自動車では駆動用電気装置の電池部分が該当します。残る4つは、流失または埋没して発見されなかった場合、運転者席の座面を超える浸水、全焼、そして損傷を修理できずに廃車したときです。
アクサ損害保険の基準で裏返すと、落ちてきた瓦でルーフがへこんだ、倒れたブロック塀に挟まれてドアが開かない、といった修理できる損傷では一時金は出ません。ただし基準は約款ごとに定められていて、社によって中身が違います。自分の契約でどこからが全損になるかは、証券に紐づく約款で確かめてください。
支払われた場合も車は手元に残ります。三井住友海上は「地震等保険金をお支払いした場合でも、当社はご契約のお車の所有権を取得せず、廃車や撤去等に要する費用を負担しません」としており、アクサ損害保険も同じ注記を置いています。50万円は生活を立て直すための一時金で、引き上げや廃車にかかる費用はここから出すことになります。
東京海上日動は、復旧するまでの間に別の地震で同じ車に生じた損害には保険金を支払わないとしています。余震のたびに受け取れるわけではありません。
火災保険とセットで契約する地震保険が対象にするのは、建物と家財です。損保ジャパンの解説は「車は火災保険とセットで加入する地震保険では補償の対象外となっています」と書いており、1個または1組が30万円を超える宝石や貴金属・美術品と並んで、自動車も対象外です。
日本損害保険協会は「損害保険の保険金等の請求に際しては、地方自治体から交付される罹災証明書の提出は不要です」と明記しました。損保ジャパンも自社の案内で「損害保険の保険金請求にあたっては、罹災証明書は原則不要です」と書いています。同社が罹災証明書の用途として挙げるのは、支援金や災害義援金の受け取り、税金などの減免、仮設住宅への入居申請です。市区町村の窓口が混み合っても、保険の請求はそれを待たずに始められます。
事故の受付は各社とも24時間体制です。番号は2026年7月30日時点で各社が公開しているものです。
| 保険会社 | 自動車の事故・被害の受付 |
|---|---|
| 東京海上日動 | 0120-119-110(土日祝を含む24時間。被害の連絡全般) |
| 損保ジャパン | 0120-256-110(24時間365日) |
| 三井住友海上 | 0120-258-365(24時間365日) |
| あいおいニッセイ同和損保 | あんしんサポートセンター 0120-024-024(24時間365日) |
損保ジャパンは、車が動かない場合のロードアシスタンスを0120-365-110と別の番号にしています。あいおいニッセイ同和損保の0120-024-024は「タフ・クルマの保険」などの契約者向けで、「タフ・つながるクルマの保険」は0120-907-995です。
証券が見つからないときは、日本損害保険協会の自然災害等損保契約照会センター(0120-501331)が契約先の照会を受け付けており、災害救助法の適用地域で家屋等の流失・焼失により契約の手掛かりを失った場合が対象で、照会できるのは本人と、配偶者・親・子・兄弟姉妹に限られます。約款や特約の相談は、そんぽADRセンター(03-4332-5241)が当面は土日祝も受け付けます。
災害救助法は7月28日、熊本県の21市町村に適用されました。熊本市、八代市、水俣市、山鹿市、菊池市、宇土市、上天草市、宇城市、天草市、合志市、美里町、大津町、菊陽町、西原村、御船町、嘉島町、益城町、甲佐町、氷川町、芦北町、津奈木町です。
この地域で被害を受けた契約者について、各社は継続契約の締結手続きと保険料の払込を2027年1月31日まで猶予します。対象は自賠責保険を除く各種損害保険です。自動車保険も入ります。東京海上日動・損保ジャパン・三井住友海上・あいおいニッセイ同和損保はいずれも適用日から6か月後の末日としてこの日付を掲げており、損保ジャパンは積立保険も同じ扱いだとしています。
自動では適用されません。東京海上日動は代理店への申し出かカスタマーセンター(0120-027-087)への相談、三井住友海上は代理店かお客さまデスク(0120-632-277)を窓口にしています。損保ジャパンは代理店か営業店、あいおいニッセイ同和損保は店舗か代理店・扱者です。満期が近い契約ほど、先に連絡する意味があります。
自賠責保険は猶予の対象から外れていますが、車検の有効期間が8月31日まで伸長されたことに連動する別の措置があります。損保ジャパンは、車検満了日が2026年7月29日から8月28日、保険期間の終期が7月30日から8月31日にあたる契約について、継続契約の締結手続きを8月31日まで猶予すると公表しています。車検対象外の車は、保険期間の終期が7月29日から8月31日の契約が対象です。
4社の案内のうち、自動車保険に固有の特例を書いているのは損保ジャパンです。「自動車保険における中断証明書の発行要件に災害による使用不能を追加する、被災日に遡及して解約をする場合に日割計算を可とする等、一部特例的な対応を行っておりますので、お取扱代理店にご相談ください」としています。
中断証明書は、車を手放して契約を中断するときに等級と事故有係数適用期間を保存しておく書類で、三井住友海上の説明によれば、国内中断の要件は車の廃車・譲渡・返還・盗難・車検切れ・別の契約への車両入替や、記名被保険者の重度傷病による運転不能などです。有効期限は中断した契約の満期日、途中で解約した場合は解約日から10年間で、発行を忘れていても満期日または解約日の翌日から5年以内なら遡って発行できます。この一覧に「災害による使用不能」は入っていません。損保ジャパンはそこを足しました。
被災日に遡って解約するときの日割計算も、同じ性格の措置です。買い替えまで間が空くときに等級をどう残すかは、契約先ごとに確かめる必要があります。東京海上日動・三井住友海上・あいおいニッセイ同和損保の3社の案内には、7月30日時点で中断証明書への言及がありません。
証券で確かめるのは、車両保険に入っているかどうかではありません。その下の特約欄に「地震・噴火・津波」の名前があるかどうかです。無ければ、車両保険を付けていても地震の損害では動きません。あれば、次に見るのは約款の全損基準で、支払いは定額50万円になります。どちらの場合も、車の状態を伝える連絡先は上の表の番号です。
ここまでは各社が公開している資料を2026年7月30日時点で整理したものです。実際に保険金が支払われるかどうかは、契約している商品と特約の有無、約款の全損基準に照らした車の状態で決まります。判断するのは保険会社です。この記事の記述と手元の証券や約款が食い違う場合は、証券と約款が優先します。
車検の有効期間が8月31日まで伸びた措置は、対象の見分け方と満了日の確認方法を「【令和8年熊本地震】熊本県に使用の本拠を置く車は車検が8月31日まで伸長」にまとめています。運転中に被災したときの動き方は「【緊急防災ガイド】熊本で最大震度7の地震が発生―車を運転中に被災したらどう動く?適切な対処法と避難ルール」にあります。全損になった車のローンや残価設定クレジットの扱いは「【噂の真相】地震で愛車が全損したら「残クレ・一括返済」を迫られるって本当?契約の罠と被災時のリアル」で扱っています。
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