2024年、運送業界を揺るがした「2024年問題」。働き方改革による労働時間制限は、物流の現場に大きな変化をもたらしました。しかし、それはあくまで「序章」に過ぎません。
真の危機は、その6年後に待ち構えています。それが「2030年問題」です。2024年問題が「法律による制限」だったのに対し、2030年問題は「物理的な担い手の消失」という、より絶望的な構造不況を指しています。
野村総合研究所などの試算によると、2030年には全国で約35%の荷物が運べなくなるという「供給の崖」が到来すると予測されています。
この危機は、決して日本全国で均一に起こるわけではありません。
なぜ2030年にこれほど大きな歪みが生まれるのでしょうか。そこには3つの構造的な要因が重なっています。
現在、日本の物流を支えている主力層は、団塊ジュニア世代を含むベテランドライバーたちです。彼らが一斉に定年・引退を迎えるのが2030年前後。一方で、若年層の入職者は減少の一途をたどっており、労働力の「蛇口」が閉まると同時に、「バケツ(現役世代)」の底が抜ける事態に陥ります。
政府は2030年度までに温室効果ガスを46%削減(2013年度比)するという高い目標を掲げています。
物流を水道や電気のような「公共インフラ」として共有するフィジカルインターネット構想。その完全移行に向けた過渡期の混乱が、2030年頃にピークに達すると予測されています。
この未曾有の危機に対し、国と企業は「物流の形そのもの」を変えようとしています。
現在、政府が検討を進めているのが、高速道路の中央分離帯や地下を活用した「自動物流道路」構想です。
これは、24時間365日、自動運転のカートが荷物を運び続ける「動くベルトコンベア」を都市間に張り巡らせるというもの。かつての鉄道、高速道路に次ぐ「第三の物流インフラ」として期待されています。
トラックから「鉄道」や「船舶」へ。
想像してみてください。抜本的な対策が遅れたまま迎えた、2030年秋の夕暮れを。
スマートフォンを操作する佐藤さん(45)は、ため息をつきます。
子供の運動会で使うビデオカメラのメモリーカードを注文しようとしましたが、画面には「最短お届け日:8日後」の表示。かつての「明日着く」は、富裕層向けの超高額オプションとなっていました。街のスーパーの棚には、かつて当たり前に並んでいた「産地直送」の野菜が姿を消し、代わりに長期保存可能な加工食品が目立ちます。
外に出れば、道路の専用レーンを無人カートが無機質に走り、空にはドローンの羽音が響く。物流は「人」が運ぶ温かいサービスから、水道のように淡々と流れる「維持困難なインフラ」へと変貌を遂げていました。
物流は社会の「血流」です。これが止まれば、経済も生活も壊死してしまいます。
2030年問題を乗り越えるために必要なのは、テクノロジーの導入だけではありません。
私たち消費者の「当たり前」をアップデートすること。それが、2030年という崖を回避するための、最も身近で強力な処方箋となるはずです。