ジャパンモビリティショー2025では、従来型のガソリン車にとどまらない「燃料の過渡期」を強く感じさせる展示が目立ちました。最先端では、EV(電気自動車)、水素(エンジン・燃料電池)、バッテリー循環(リユース・リサイクル・V2H/V2G)が並行展開しています。それぞれ得意分野と課題が異なり、互いに補完し合う関係にあります。以下、2025年時点の現状と課題、今後の有望性を詳しく見ていきます。


EVは単なる移動手段にとどまらない。 日産リーフでは10年以上前からV2H(車載電池から住宅へ給電)やV2G(車→電力網還元)の実証実験が行われてきました。例えば日産は2012年にリーフを家庭用電源として利用する実証実験を実施し、2019年の千葉台風時には53台のリーフを自治体や福祉施設に貸与して非常用電源として活用しています。
V2H(Vehicle-to-Home): 停電時にEVから家庭へ電力供給。実用例として日産リーフe+(60kWh)は、コミュニティセンター等に数日分の電力を供給可能とされており、災害時のバックアップ電源としての実績があります。
V2G(Vehicle-to-Grid): 余剰電力を電力網に戻し、系統の安定化やEVユーザーの電気代削減を狙う技術。日本でも長く実証段階が続いていましたが、2026年から日産が双方向充電対応のシステムを発売する予定です。これにより、電力需給の平滑化やユーザーの電費負担軽減が期待されます。
商用化動向: 日本ではV2Hは既に対応機種が出ていますが、V2G(電力会社との連携)は法整備も進みつつあり、まもなく実用化の段階です。
これらにより、EVは「走る家電」から「動く蓄電池」へ進化しています。災害時給電や電力網への還元といった“送電ステーション”の役割が増え、単に移動手段ではなく重要な電力インフラの一部になりつつあります。


EV用リチウムイオン電池は車載での使用後も高い貯蔵能力を維持するため、再利用(セカンドライフ)が活発化しています。実際、EVバッテリーは車載用途で交換基準を超えても、住宅や施設用蓄電池としてさらに10~15年程度使用可能とされています。日産と連携する4Rエナジー社の技術では、B級品バッテリー(車載には不適だが未だ大容量のもの)をビル設備の蓄電用途や太陽光の余剰電力貯蔵に活用しています。これにより、自治体や企業の防災・非常電源としての利用が既に進んでいます。
再利用用途の例: 物流倉庫や工場、学校などの非常用電源、住宅やビルの再生可能エネルギー蓄電など、多様な用途で実証・実用化されています。
新技術「混ぜて使う」: 2025年には矢崎総業が「B∀TTERFLY」というシステムを発表しました。これは劣化状態が異なる中古バッテリーを混合し、一つの蓄電ユニットとして組み合わせる技術です。AI制御で電圧・容量差を吸収し、低コストで大容量蓄電池を構築できます。膨大な使い古しバッテリーを効率的に流通させる手段として注目されており、バッテリー廃棄問題の有力な解決策となり得ます。

これらにより、バッテリー循環が本格化しています。使い古されたEVバッテリーが適切に再利用されることで、“第二の人生”を与え、再資源化が促進されます。またV2H/V2Gもバッテリー活用の一形態であり、EV導入増加と並行して蓄電網が築かれつつあります。
水素は決して万能ではないですが、特定用途で有効な燃料です。モビリティショーでも、乗用セダン(次世代MIRAI)だけでなく、大型トラックやバス、フォークリフトなど多彩な水素車両が披露されていました。水素の長所と短所は明確です:
長所: 短時間での燃料補給(給油)、バッテリー車以上の長距離走行、重量物輸送や牽引に強いパワー(エネルギー密度が高い)、再生可能エネルギー由来のグリーン水素なら排出ゼロ(唯一の排出物は水)。
短所: 水素ステーションの数は依然わずか、燃料価格は高い、市街地インフラ整備に巨額コストが必要、などの課題がある。
したがって、「一般家庭用乗用車への全面切替」は難しい一方で、長距離トラック・大型バス・産業車両などでは有力な選択肢です。実際、国も重輸送車向けに燃料補助金(従来燃料との差額の約3/4に相当する1kgあたり約700円の補助)を導入し、商用車の水素燃料コストを引き下げています。METI(経産省)も「水素燃料電池車は短時間給油・長距離走行が可能で、2030年までに大型トラック・バスへの展開が期待される」と明言しており、用途特化型の普及に注力しています。
このように、水素は「万能選手」ではなく「用途特化型」の燃料と言えます。家庭用というより、脱炭素物流や産業分野でのキーテクノロジーとなりつつあります。政府の補助やメーカーの開発も、この方向を後押ししています。



実はEVと水素は競い合うだけの関係ではなく、歴史的に連携・並行進化してきました。2003年の日産エクストレイルFCVはその代表例です。この車両は水素燃料電池で発電し、その電力でモーターを回す電気自動車でした。つまり「走りはEV、エネルギー源は水素」という構造です。技術的に時代を先取りした試みでしたが、その後は時期尚早とされて止まりました。しかし現代のMIRAIや各社トラックの燃料電池モデルはまさに同じコンセプトです。実際、日産も元CEOカルロス・ゴーン氏は「FCVはEVの後に来る」と語りつつ、少数ながらX-Trail FCVをリース提供して実証を続けてきました。要するに、EVと水素は「対決」ではなく「共存して発展」してきたのです。
日本の電力構成を見ると、2025年時点で約63%が火力(ガス・石炭)由来です。再エネが増えてきたとはいえ、火力大国の状態に変わりはありません。このため、仮にEVを増やしても、発電の大半が化石燃料ではCO₂削減効果は限定的です。政府もこれを認識しており、2030年までに非化石電源比率を59%に引き上げる目標を掲げています。具体的には再エネ比率を現在の26%から約36~38%に、原発比率を5%から20~22%に増やす計画。これには大規模な洋上風力や太陽光の導入のほか、電力系統の蓄電化(バッテリー網の構築)が不可欠です。
「バッテリー蓄電網の強化」: 日本の第6次エネルギー基本計画では、再エネ増に対応して分散型蓄電池を全国に拡充する方針が明記されています。車載バッテリーのV2H/V2G活用もこの一環と位置づけられ、停電時バックアップや需給調整に活用される見込みです。
水素は地理・気候の影響を強く受ける燃料でもあります。例えば北海道は豊富な風力資源を活用したグリーン水素プロジェクトが進む一方、九州では太陽光発電を使って水素を作る取り組みが実際に稼働しています。一方、日本単独では国内生産量だけでは足りず、オーストラリアなどから液体水素やアンモニア形態で輸入する計画も進められています。このように、水素の普及は「何で作るか・どこで使うか」が強く結びついており、地域ごとに最適な手段が異なる燃料なのです。

結論として、日本は「EV+水素+ハイブリッド(ガソリン)」の三本柱で進むことになります。トヨタ、ホンダ、日産、三菱、いすゞ、日野…など各メーカーは全て、複数燃料の併用を前提に技術開発を進めています。背景には、日本の特殊事情があります。島国ゆえ輸入燃料依存であり、地形的に山地や雪国も多い。広大な物流網を持ち、都市部と地方部の気候差も大きい。これらを一つの燃料で全て満たすのは非効率です。そのため、乗用車中心の都市部ではEVが進み、長距離貨物や産業現場では水素やハイブリッドが活躍し、マイルドハイブリッドや高効率ガソリン車も併用する、という「複数燃料が共存する社会」**を描いているのです。
EVが主役化: EVは「移動体」から「移動する蓄電池」へ進化中です。家庭や電力網への給電(V2H/V2G)によって、単に走るだけでなく電力インフラの一部として機能しつつあります。
バッテリー循環が本格化: 車載を終えたEVバッテリーは、物流拠点や住宅用蓄電池などで第二の活躍を始めています。さらに、「B∀TTERFLY」のような混用技術で使い古しバッテリーの再利用範囲が劇的に広がりつつあります。
水素は用途特化型へ: 水素燃料は、短時間給油・長距離・重荷役で強みを発揮し、長距離トラック・大型バス・産業車両などで主役に近づいています。一方、充填インフラ整備とコスト問題から、すぐに家庭用乗用車の主流になるわけではありません。
ガソリン一強時代の終焉: 化石燃料だけではもはや脱炭素を達成できず、ガソリン依存は確実に終わりを迎えます。しかし同時に、「EV一辺倒」の世界にもならず、多様な技術が共存します。
日本の未来は多燃料国家: 日本では地域ごと・用途ごとに最適な燃料が異なるため、EV・水素・ハイブリッド(ガソリン)…全ての技術を活用する方向です。モビリティも「一つの答え」ではなく、多様性に富む「正解の組み合わせ」で進化していくでしょう。
これらの潮流は、すでに国内外の政策・企業戦略にも反映されています。例えばトヨタ・ホンダは新型EVとFCVを並行開発し、政府もEV普及と同時に再エネ・原発再稼働・水素補助金を推進しています。ガソリン車だけに依存しない次世代モビリティ社会が、まさに幕開けしようとしています。