ハイブリッドシステムのエラーコードと格闘し、複雑な配線図をタブレットでスクロールする毎日。整備士の皆さん、本当にお疲れ様です。現代のクルマは確かに高性能で安全ですが、時々「機械を直している」という実感が薄くなることはありませんか?
そんな時こそ、振り返ってみたい一台があります。1970年にホンダが世に放った「バモスホンダ(初代バモス)」です。
ドアも屋根もなく、剥き出しの鉄パイプと空冷エンジンだけで構成されたその姿は、一見すると遊園地の乗り物のよう。しかし、その設計をプロの視点で紐解くと、そこには「引き算の美学」と「ホンダの狂気」が詰まっていました。
「バモス」と聞くと、多くの人は2000年代の箱型軽バンを思い浮かべるでしょう。しかし、初代は全くの別物。軽トラック「TN360」のコンポーネントを流用しつつ、極限まで無駄を削ぎ落とした「オープン・ミッドシップ・多用途車」でした。
現代の軽自動車が 800kg 〜 1,000kg 程度であることを考えると、いかに異様に軽いかがわかります。
フロントグリルに鎮座するスペアタイヤ。単なるデザインと思われがちですが、実はこれ、「重量配分」と「安全性」を考えた結果だと言われています。
ミッドシップゆえにフロントが軽くなりすぎるのを防ぎ、同時にドアのない車体において、万が一の衝突時にクッションの役割を果たさせる……。この「あるものは何でも使う」合理性こそ、当時のホンダの真骨頂です。
サイドシル剛性? 衝突安全基準? そんな言葉を跳ね返すような「ガードパイプ」一本のドア。整備士なら思わず「板金修理が楽そうだな」と笑ってしまいますが、これによって得られた開放感と軽量化は、後のどんなSUVも到達できていない領域にあります。
現行車ではまず見かけない10インチタイヤ。しかし、MRレイアウトと超軽量ボディが組み合わさることで、カートのようなクイックなハンドリングを実現していました。「パワーに頼らず、軽さで曲がる」。まさにスポーツカーの原点がここにあります。
これほどユニークな車でありながら、総生産台数はわずか 約2,500台。商業的には「大失敗」と言わざるを得ませんでした。
その最大の理由は、当時の日本の「マイカー観」にあります。1970年当時、クルマはまだ家宝であり、家族のステータスでした。「雨が降ればずぶ濡れになり、エアコンもドアもない車」は、当時のユーザーが求めていた「豊かな生活」の象徴にはなり得なかったのです。
しかし、現代はどうでしょうか? N-VANで車中泊を楽しみ、ジムニーでキャンプに行く。そんな「クルマを道具として使い倒す」文化が定着した今なら、このバモスは爆発的にヒットしていたかもしれません。
もし幸運にも、あなたの工場にバモスが入庫したら……。プロとしてチェックすべきポイントをまとめました。
初代バモスは、売れなかったかもしれません。しかし、「軽自動車の規格内で、いかに人をワクワクさせるか」というホンダの挑戦は、50年経った今も色褪せていません。
効率や数値ばかりが求められる現代の整備現場。だからこそ、こうした「余白」と「遊び心」に満ちた一台に触れることは、私たちがなぜクルマの道を選んだのかを思い出させてくれるはずです。