「日本の技術力なら、絶対に減速しなくても通信できるはず。ドバイなんか120キロで走ってても支払いできるのに、なぜ日本はイチイチ料金所で減速させるんだ?」
高速道路の料金所を通過するたびに、そんな疑問やストレスを感じたことはありませんか?
結論から申し上げますと、その直感は半分正解で、半分は誤解です。
実は、日本のETCシステムは技術的には時速100km以上でも余裕で通信可能な超高性能スペックを持っています。では、なぜ私たちは今日も料金所の前でブレーキを踏まなければならないのでしょうか?
そこには、「技術力不足」とは全く別の、日本特有の「やむにやまれぬ事情」が隠されていました。
この記事では、ETCにまつわる都市伝説の真相を解明し、海外との決定的な違い、そして「バーがなくなる未来」の可能性について深掘りします。
まず声を大にしてお伝えしたいのは、「日本の技術力がないから減速させている」という説は完全に誤りだということです。
日本のETCで採用されている通信方式(DSRC:狭域通信)は、世界的に見ても非常に高性能なものです。
実際、開発段階のテストでは、時速180kmで通過する車両でも正確に課金処理ができたというデータが存在します。つまり、技術的なスペックだけで言えば、アウトバーンのような速度で駆け抜けても全く問題ない能力を、日本のETCは最初から持っていたのです。

では、なぜ高性能なシステムを持ちながら、私たちは「時速20キロ以下」という制限速度を守らなければならないのでしょうか?
その答えは、冒頭の会話にもあった「安全確保」と「未払い防止」という、極めて現実的な運用上の理由にあります。
最大の理由は、日本のETCレーンには「開閉バー」が設置されているからです。
もし、時速100kmで通過しようとして、何らかのエラーでバーが開かなかったらどうなるでしょうか? 車はバーに激突するか、急ブレーキをかけて大事故につながります。バーがある以上、物理的に安全に停止できる速度まで減速させる必要があるのです。

「昔はもっと速く通過できた気がする」と感じている方もいるかもしれません。
実は、ETCの運用開始当初は、バーが開くタイミングが今よりも早く設定されており、多少速度が出ていても通過できることがありました。
しかし、その結果、カードの未挿入や期限切れに気づかずに突っ込み、閉じたバーの前で急停車する車が続出しました。後続車が追突する事故や、バーをへし折って突破するトラブルが多発したため、道路事業者は「確実に減速しないとバーが開かないタイミング」へと設定を変更せざるを得なくなったのです。

「でも、海外ではバーがない国もあるじゃないか!」という反論はごもっともです。
ドバイ、シンガポール、アメリカの一部などで採用されているのは、「フリーフロー(ノンストップ)方式」と呼ばれるシステムです。ゲートやバーは存在せず、カメラでナンバープレートを読み取ったり、強力なアンテナで課金したりするため、減速の必要が一切ありません。
なぜ日本はこれを真似できないのでしょうか? そこには技術ではない「2つの大きな壁」があります。
バーをなくすと、必ず「ETCカードが入っていない車」や「悪意のある不正車両」がそのまま通過してしまいます。
海外では、ナンバープレートから所有者を特定し、高額な罰金付きの請求書を送りつけるシステムが整備されています。「払わなければ逮捕、または車を没収」という強力な法的強制力が背景にあるため、未払いが抑止されています。
一方、日本では、数百円の高速料金を回収するために、所有者を割り出して請求書を送るコスト(人件費や手数料)を考えると、「回収コストの方が高くなる」という矛盾が生じます。また、プライバシー保護の観点や法整備の遅れもあり、「全車両をカメラで監視して自動請求する」システムの導入には、これまで慎重な議論が続いてきました。
日本では「料金所で物理的に止めて、確実に支払わせる」という方法が、最も確実で低コストな手段として選択されてきたのです。
日本の多くの料金所は、広い広場(料金所ターミナル)から各レーンへ車が広がり、通過後に再び本線へ合流する「ラッパ型」や「広場型」の構造になっています。
もしバーをなくして全員が時速100kmで通過すると、料金所を抜けた直後の合流地点で、高速での割り込みや接触事故が多発する恐れがあります。これを防ぐには、道路の形状そのものを直線的な単純な構造に工事し直す必要があり、莫大な費用と時間がかかります。
「技術はあるが、仕組みが追いついていなかった」というのが日本のETCの真実でした。しかし、ついにその「仕組み」が変わろうとしています。

国土交通省や高速道路会社は、将来的な「バーの撤去(フリーフロー化)」へ向けて、具体的な検討と実証実験を始めています。
日本のETCが減速を強いる理由は、技術力不足ではなく、「確実に料金を回収する仕組み(バー)」と「安全性」のバランスを、当時の社会情勢の中でギリギリまで追求した結果の産物でした。
料金所でのイライラは、「日本の技術者が、社会の制約の中で苦心して作り上げた安全装置が働いている証拠」とも言えるかもしれません。
しかし、時代は変わり、技術も法律も進化しています。私たちが料金所をノンストップで駆け抜ける未来は、もうすぐそこまで来ているのかもしれません。