炎天下に停めた車でエアコンを止めると、車内は15分で熱中症の危険域に入ります。JAFが気温35℃の日にミニバンで測った値です。だから車中泊でも仮眠でも、エンジンを切るかどうかは涼しさを取るか燃料を残すかの話になる——多くの人はそう考えています。
ところが車によっては、エンジンが止まっていても冷房が出ます。反対に、走っているあいだは冷えていたのに、信号待ちで止まったとたんに送風だけになる車もあります。分けているのは、エアコンのコンプレッサーを何が回しているかです。
自分の車がどちらなのかは、取扱説明書にたいてい書いてありません。書いてあるのは、止めたときに何が起こるかのほうです。
冷たい風を作っているのはコンプレッサーです。冷媒を圧縮して循環させる部品で、エアコンの中でまとまった力を使っているのはここだけです。冷媒がどう回って車内の熱を外へ運ぶかは、車中泊のエアコン―燃料を使っている部品と、エンジンを止める判断をご覧ください。
その力をどこから取るかを、部品メーカーのデンソーが車の種類ごとに分けて書いています。エンジンだけで走る車では、冷房はエンジンの動力でコンプレッサーを回し、暖房はエンジンの廃熱を車内へ持ってきます。モーターを主な動力にするプラグインハイブリッド車と電気自動車では、そのエンジンの動力も廃熱も得られません。だから冷房は電動コンプレッサー、暖房は電気ヒーターと、どちらも電気で作る手段が要ります。ハイブリッド車についても、エアコンのコンプレッサーは電動が主流だとJAFが書いています。
コンプレッサーを作っている豊田自動織機は、ハイブリッド車・プラグインハイブリッド車・電気自動車をまとめて「電動車」と呼んでいます。そうした車に積むコンプレッサーは電動タイプが必要になる、と書いています。同社で最初の量産品は、2003年に2代目プリウス向けに作られたES18です。電動コンプレッサーの生産台数は、2021年度に累計2,700万台を超えました。開発で静かさを求めたのは、この部品が車の止まっているあいだや充電中にも動くからです。
ベルトでエンジンにつながったコンプレッサーには、これができません。

ベルトでつながっている車では、エンジンが止まればコンプレッサーも止まります。アイドリングストップの車でいちばんはっきり書いているのは三菱自動車です。デリカD:5の取扱説明書に、こうあります。
エアコン作動中に AS&G が作動した場合、エンジンとエアコンコンプレッサーの両方が停止し、送風のみとなるため、ウインドウガラスが曇ることがあります。
ホンダのN-BOXも同じです。「アイドリングストップ中は冷暖房機能が停止し、送風機能のみが作動します」。
このとき何が起きるかを、デンソーは課題として書いています。エアコンが動いていると、冷房に必要な動力や暖房の熱を得るために、いったん止まったエンジンがまたかかってしまうのです。
車内が暑くなればエンジンがかかり、また止まり、またかかります。デリカD:5の取扱説明書は、エンジンが自動で再始動する条件のひとつに、エアコンを使っていて車内の温度が上がり、コンプレッサーが作動したときを挙げています。逆に、そもそもエンジンが自動停止しない条件も挙げています。エアコンに関わるものでは、車内が暑い状態でエアコンを使っているときと、設定温度を最高または最低にしてエアコンをAUTOで動かしているときです。
真夏の停車中は、アイドリングストップがそもそも働きにくくなります。同じ取扱説明書は、設定温度を高めにすればエンジンの自動停止時間が延びる、とも書いています。
止まっているあいだの数十秒だけ冷風を残す部品があります。エアコンの中で風を冷やす部品(エバポレーター)に蓄冷材を組み込んだもので、スズキは「エコクール」と呼んでいます。エアコンを使っているあいだの冷気で蓄冷材を凍らせておき、アイドリングストップ中の送風でも冷たい風を出す仕組みだ、というのがスズキの説明です。室内の温度が上がってエンジンが再始動するのを抑えるので、低燃費にも役立つ、と続けています。
どのくらいもつのか。スズキは「一定時間」としか書いていません。
秒数が出ているのは、部品を開発したデンソーの技術論文のほうです。試験装置では、コンプレッサーが止まってから吹き出す風が15℃まで上がるのに、従来のエバポレーターで19秒、蓄冷材つきで54秒かかりました。実際に人が乗って答えた試験でも、似た長さになっています。蓄冷材がないと、コンプレッサーが止まって25秒後には半数以上が冷房の効きの低下に気づきました。蓄冷材があると、その時点が60秒まで延びます。凍らせるほうにも時間が要り、コンプレッサーが40秒以上回れば凍りきります。

蓄冷材があっても、19秒が54秒に延びるだけです。信号待ちの長さに合わせて作られています。
停まったまま夜を越す場面には、まったく届きません。
エンジンが止まっても冷房が出ると、自動車メーカー自身が書いています。日産がe-POWER車について答えたよくある質問です。
冷房の場合、電動コンプレッサーで冷媒を循環させるため、エンジンが始動していなくても問題ありません。リチウムイオンバッテリーの充電量次第でエンジンがOFFになりますが冷房は出続けます。
同じ回答は、暖房についてこう続けます。「暖房の場合は熱源がエンジン冷却水の温水の熱を利用するため、エンジンは始動し続けます」。冷房と暖房で答えが割れるのは、冷房が電気で作れて、暖房がエンジンの熱をもらっているからです。
ホンダのe:HEV車の取扱説明書は、エアコンの効きが電池の残量で変わりうると書いています。フィット、ヴェゼル、ステップワゴンのいずれにも同じ1行があります。「高電圧バッテリーの残量が少ないときエアコンの効きが弱くなることがあります」。この1行からは、冷房を作るコンプレッサーの電源が走行用の高電圧バッテリーだと読み取れます。
日産リーフの取扱説明書には、電源を切ったままコンプレッサーが回る場面が書かれています。タイマーエアコンや乗る前エアコン(リモート)が動いているときにもコンプレッサーと冷却ファンの音がするが異常ではない、という注記です。
電動でも、いつでも冷房が出るわけではありません。サクラの取扱説明書には、パワースイッチの位置ごとに何が使えるかの表が載っています。
| パワースイッチ | OFF | ON | ON(走行可能表示灯 点灯) |
|---|---|---|---|
| 送風 | 出ない | 出る | 出る |
| 冷房・暖房 | 出ない | 充電中のみ | 出る |
| タイマーエアコン | 使える | 使えない | 使えない |
| 乗る前エアコン | 使える | 使えない | 使えない |
リーフの取扱説明書にも同じ表があり、こちらはアクセサリー位置の列が加わります(送風は出ず、タイマーエアコンと乗る前エアコンは使えます)。
**電源を切ってしまえば、冷風どころか送風も出ません。**冷房を出すには、走行できる状態にするか、充電するかのどちらかです。電源を切ったままなら、タイマーエアコンか乗る前エアコンを使うことになりますが、こちらは時間が決まっています。サクラの取扱説明書によれば、バッテリーを使用するモードの作動時間は、リチウムイオンバッテリーの消費を抑えるために約15分間だけとされ、外気温によっては車内が設定した温度にならないこともあります。
トヨタとホンダの取扱説明書には、これに当たる表が見当たりません。代わりに置かれているのは注意書きで、車の種類によって言葉が入れ替わります。ハイブリッドのプリウスとシエンタは「ハイブリッドシステム停止中は、エアコンを必要以上に使用しないでください」。ガソリンのシエンタとハイエース バンは、同じ位置が「エンジン停止中は」に変わります。bZ4Xは「EVシステム停止中は」です。いずれもバッテリーあがりを防ぐための注意です。ホンダのe:HEV車では、エアコンの説明の冒頭に、パワーシステムを起動した状態で使うことが前提だと書かれています。
言い換えれば、トヨタもホンダも、想定しているのはシステムを起動したままエアコンを使うことだけです。
冷房が出続ける車でも、電気は減ります。減った先で何が起きるかを、デンソーはハイブリッド車の課題として書いています。夏に冷房のため電動コンプレッサーを動かすと電池の消費が増え、それを補って充電するために、エンジンの動く時間が増えます。
自動車メーカーの取扱説明書にも、同じことが書かれています。三菱アウトランダーPHEVの取扱説明書は、停車中でも自動でエンジンが作動する場合を挙げています。そこに並んでいるのは、駆動用バッテリーの残量が減ったときや、エアコンを使ったときです。
トヨタでは、同じことが、災害時に車から電気を取り出す非常時給電システムの説明に出てきます。駆動用電池の残量が減るなどすると、自動でエンジンが始動して充電を行います。あわせて、一部の自治体では、駐車または停車中にエンジンが始動すると条例にふれる可能性がある、とも添えています。
同じページには、給電が止まる条件もあります。使用中に燃料残量警告灯が点灯すると、給電機能は停止します。電気で動いていても、燃料が残り少なくなれば終わります。
日産の回答も、同じことを言っています。「リチウムイオンバッテリーの充電量次第でエンジンがOFFになりますが冷房は出続けます」——エンジンが止まるかどうかは充電量が決めるので、冷房を使い続ける限り、エンジンがかかるタイミングを運転者は選べません。
トヨタは、給電システムを使うときの警告としてこう書いています。
エアコンを使用していても、システムの自動停止等により室内が高温、または低温になる場合があり、熱中症・脱水症状・低体温症になるおそれがあります。
止めた車の中でエアコンを使い続けることを、最初から想定した機能もあります。ただし条件がそれぞれ違います。
テスラの「キャンプモード」は、車内にとどまる人のための機能だと取扱説明書に明記されています。車内の温度を保ったまま、USBポートと低電圧コンセントから電子機器の電源も取れる機能で、キャンプのときや子どもに付き添うときに最適だとテスラは書いています。
使える条件は、シフトがパーキングにあること、そして低電力モードに入っていないことです。低電力モードは、残量が減ると自動で入ります。切り替わる残量は10%から20%のあいだで選べて、初期設定は20%です。ここを下回るとキャンプモードは無効になります。バッテリーの残量が少ないときはキャンプモードの使用を控えるように、とも書かれています。
トヨタの「マイルームモード」は、プリウスPHEVなどのプラグインハイブリッド車にあります。ただし前提が違います。取扱説明書によれば、これは車両に普通充電ケーブルをつないだ状態で、外部電源から取った電力でエアコンやオーディオなどを動かす機能です。外部電源につながっていることが条件なので、**停電した場所や、外部電源のない避難先の駐車場では使えません。**駆動用電池の残量が下限に達するとエアコンが自動的に停止する、とも書かれています。
日産の「乗る前エアコン」とトヨタの「リモートスタート」は、乗る前に車内を冷やしておく機能です。ここでも電気自動車とエンジン車で中身が分かれます。日産はガソリン車・e-POWER車について、離れた場所からエンジンを始動させて暖房や冷房を動かす機能だと書いています。作動時間は合計20分までです。トヨタも同じ分け方をしていて、電気自動車・プラグインハイブリッド車・燃料電池車には「リモートエアコン」、それ以外には「リモートスタート(アプリ)」という別の名前を付けています。どちらのメーカーも、停車中にみだりにエンジンをかけると条例で罰則を受ける場合がある、と添えています。
乗用車ではありませんが、エンジンを切った状態で使う冷房装置そのものも売られています。デンソーの「Everycool」は大型トラック用の停車時クーラーで、車載の24Vバッテリーだけで動きます。カタログ値は消費電力が定格300W、作動時間はHiモードで3時間・Loモードで8時間(満充電のバッテリーで測った値です)。ただし同社は、Everycool単体では車室内全体を冷やせないと注記していて、日中はあらかじめ車両のエアコンで冷やしてから使うことを勧めています。
**日本の乗用車の取扱説明書は、コンプレッサーの駆動方式をほとんど書きません。**自分の車の取扱説明書を開いても「電動コンプレッサー」の語は見つからないのが普通です。「コンプレッサーを回すもの」の欄は、部品メーカーの資料と、駆動方式を名指ししている日産のよくある質問に基づいています。「エンジン/システムを止めたときの冷房」の欄は、各社の取扱説明書とよくある質問の記述です。
| 車種 | コンプレッサーを回すもの | エンジン/システムを止めたときの冷房 |
|---|---|---|
| 日産 ノート/オーラ/セレナ e-POWER/エクストレイル | 電池(走行用) | エンジンが止まっても出続ける(暖房はエンジンが回り続ける) |
| 日産 サクラ | 電池(走行用) | 走行できる状態か充電中のみ。電源を切ると送風も出ない |
| 日産 リーフ(ZE1) | 電池(走行用) | 同上。電源を切っているときはタイマー/乗る前エアコン(充電ケーブル非接続時は約15分・接続時は最長2時間) |
| トヨタ プリウス(ハイブリッド) | 電池(走行用) | 注意書きは「ハイブリッドシステム停止中は、エアコンを必要以上に使用しないでください」 |
| トヨタ プリウス(PHEV) | 電池(走行用) | 普通充電ケーブルをつないだマイルームモードなら、駐車したまま使える |
| トヨタ シエンタ(ハイブリッド) | 電池(走行用) | プリウス(ハイブリッド)と同じ注意書き |
| トヨタ シエンタ(ガソリン) | エンジン(ベルト) | 注意書きは「エンジン停止中は、エアコンを必要以上に使用しないでください」 |
| トヨタ ハイエース バン | エンジン(ベルト) | エンジンを止めれば冷房も止まる |
| トヨタ bZ4X | 電池(走行用) | 注意書きは「EVシステム停止中は、エアコンを必要以上に使用しないでください」 |
| ホンダ フィット/ヴェゼル/ステップワゴン e:HEV | 電池(走行用) | エアコンはパワーシステムを起動した状態で使う |
| ホンダ N-BOX | エンジン(ベルト) | アイドリングストップ中は冷暖房が止まり、送風だけになる |
| スズキ スペーシア/ワゴンR/ハスラー/アルト/ソリオ | エンジン(ベルト)+蓄冷 | アイドリングストップ中も、一定時間は冷風が出る |
| 三菱 デリカD:5 | エンジン(ベルト) | AS&Gが働くとエンジンとコンプレッサーが両方止まり、送風だけになる |
| 三菱 アウトランダーPHEV | 電池(走行用) | 停車中でも、エアコンを使うと自動でエンジンがかかることがある |
| テスラ モデル3 | 電池(走行用) | キャンプモードで駐車中も維持。残量が20%(初期設定)を下回ると無効 |
同じスズキでも、マイルドハイブリッドを積んでいれば必ず蓄冷が付くわけではありません。スイフトの走行・環境性能のページにエコクールの項はなく、スズキ自身も「搭載グレード・機種は車種によって異なります」と書いています。
冷房が出るかどうかとは別に、車内で眠ることについての書き方は各社で違います。
トヨタは、取扱説明書に「車中泊が必要なときは」という項目を置いています。ハイブリッド車も電気自動車もガソリンのハイエース バンも、同じ文言です。
車中泊としてお車をご利用になる場合は、エコノミークラス症候群や熱中症、一酸化炭素中毒などのリスクを伴うため十分注意してください。
ガソリン車の警告欄はもっと直接的で、GR 86の取扱説明書は「仮眠するときは 必ずエンジンを停止してください」と書いています。理由は2つで、無意識にシフトレバーを動かしたりアクセルを踏み込んだりする誤操作と、風通しの悪い場所で排気ガスが車内に入ることです。
ホンダも同じ趣旨ですが、止めてくださいと書いてあるのはエンジンではありません。フィット e:HEVの取扱説明書は「仮眠するときは、パワーシステムを停止してください」で、理由に挙げているのは誤操作だけです。
日産は、ノートの取扱説明書で排気ガスを理由に挙げています。「以下の状況では、e-POWERシステムを長時間作動したままにしない」として並ぶ7つの状況の中に、「仮眠や長時間の駐車をするとき」があります。
テスラのモデル3の取扱説明書には、車中泊や就寝についての記述がありません。キャンプモードの説明にある警告は、子どもとペットを車内に残さないように、というものです。
**エンジンが止まっている電動車でも、ホンダと日産は、システムを動かしたまま眠らない側に立って書いています。**トヨタは注意をうながすだけで、テスラには記述がありません。冷房が出ることと、そのまま眠ってよいことは、別に書かれています。
冷房を続ければ、どの車でも何かが減ります。ベルト駆動なら燃料、ハイブリッド車なら電池が減ってエンジンがかかり、電気自動車なら走れる分の電気です。どこまで使えるのかを、車が数字で教えてくれるわけではありません。
エンジンを止めた車内が何分でどこまで暑くなるか、風量や内気循環がどう効くかは車中泊のエアコン―燃料を使っている部品と、エンジンを止める判断をご覧ください。ハイブリッド車や電気自動車から家電へ電気を取り出す話は停電のピンチを救う!大地震で「走る蓄電池」として大活躍する車(PHEV・EV・HV)の底力にあり、給電の出力と制約が分かります。夏に増えるバッテリーのトラブルと、走り出す前の点検は猛暑とバッテリー―夏に増えるトラブルの種類と、走り出す前に見るところをご覧ください。
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