三菱自動車は7月30日、軽自動車などを生産する水島製作所(岡山県倉敷市)で一部車種の生産を同日夜から停止すると明らかにしました。震源は熊本県です。止めた理由は部品供給が滞ったことでした。時事通信は同日、「九州以外で自動車生産を停止する動きも出始めた」と伝えています。
止まった工場は震源の周りに集まりません。熊本の部品メーカーと半導体工場から、部品が流れていく先に並びます。以下は7月30日夜までに各社が公表した内容です。
熊本県内の拠点は、揺れそのもので止まりました。並ぶのは自動車部品と半導体です。7月30日時点の状況を示します。
| 拠点 | 所在地 | 7月30日時点の状況 |
|---|---|---|
| ルネサス 錦工場 | 球磨郡錦町 | 7月29日夜より順次生産再開 |
| ルネサス 川尻工場 | 熊本市 | 8月5日より順次再開予定 |
| 東京エレクトロン九州 本社・大津事業所 | 合志市・菊池郡大津町 | 建屋・設備に大きな被害なし。週明けの本格稼働へ復旧中 |
| ホンダ 熊本製作所 | 菊池郡大津町 | 7月31日まで停止。再開時期は状況を見て判断 |
| アイシン九州 | 熊本市南区 | 停止継続。被害状況の確認と復旧作業中 |
| JASM(TSMC)熊本第1工場 | 菊池郡菊陽町 | 水・電力は正常。製造装置の調整に時間を要する見通し |
| ソニー系 熊本テクノロジーセンター | 菊池郡菊陽町 | 停止。復旧時期は見通せず |
| 三菱電機 合志・菊池の2工場 | 合志市・菊池市 | 停止。再開のめど立たず |
県外の工場は、地震そのものの被害を理由には止めていません。
| 工場 | 所在地 | 7月30日時点の状況 | 止めた理由 |
|---|---|---|---|
| トヨタ自動車九州 宮田・小倉・苅田 | 福岡県 | 7月31日まで停止、8月3日以降は未定 | 安全・物流・仕入れ先の状況 |
| 日産自動車九州 苅田 | 福岡県苅田町 | 7月30日〜31日に一部ライン停止 | 一部車種の部品供給元が被災 |
| ダイハツ 大分・久留米 | 大分県中津市・福岡県久留米市 | 7月31日まで停止 | 仕入れ先の確認に時間 |
| フタバ産業 九州子会社3工場 | 九州 | 停止 | トヨタの停止で部品の行き先がない |
| 三菱自動車 水島製作所 | 岡山県倉敷市 | 7月30日夜から一部車種停止 | 部品供給が滞った |
トヨタ自動車九州は3工場を7月28日にいったん止め、29日朝に再開し、同日夕方に再び止めました。担当者は毎日新聞に「仕入れ先や道路状況の確認ができないまま工場は動かせない」と説明しています。29日朝までは手元の在庫で動かせた、というのが再停止の前提です。
連鎖は往復します。フタバ産業は九州にある子会社3工場の生産を止めましたが、地震の直接的な被害は受けていません。トヨタが止まったことが理由です。同社幹部は時事通信に「部品を作っても使われないので、工場の稼働を止めざるを得ない」と説明しています。
完成車の組立ラインは、部品が1点でも欠ければ動きません。逆に、ラインが止まればその1点を作っている工場も納入先を失います。片方の停止がもう片方を呼ぶので、稼働している工場の数は日を追って増えるとは限りません。
熊本県内の部品拠点で影響が大きいのはアイシン九州です。同社が担うのはドアの中核部品で、時事通信によればダイハツと日産にも供給しています。アイシンの7月29日の発表では、事業内容は車体系機能部品の製造、エンジン部品の鋳造・加工、走行安全部品の組付け、半導体製造装置の組立てです。アイシンはトヨタ系ですが、アイシン九州の納入先は系列の外へも広がっています。1社の停止が複数のメーカーに同時に効きます。
アイシングループで止まったのはこの1社です。同じ発表で、玉名郡南関町のエイティー九州(自動車部品の鋳鉄鋳造・機械加工)を含む他の九州拠点には、生産に影響するような被害はないとしています。
熊本県が2025年3月に改定した「くまもと半導体産業推進ビジョン」は、集積の始まりをこう書いています。1960年代に三菱電機とNEC九州が半導体の一貫製造工場を建てました。立地の要因は「地震や落雷が少ないこと、地下に良質かつ豊富な水があること、広大な平野があること」です。
その後は政策が積み上がります。1982年の熊本テクノポリス基本構想、2000年の熊本県工業振興ビジョンにおける半導体分野の戦略指定、2003年の熊本セミコンダクタ・フォレスト構想と続き、そのたびに企業誘致が重ねられてきました。2021年にTSMCがソニーセミコンダクタソリューションズと合弁でJASMを設立し、日本初の工場を熊本に建てると発表したのは、この積み重ねの上です。
集積の濃さは出荷額に出ます。同ビジョンによれば、熊本県の全製造業の製造品出荷額に占める半導体産業(半導体製造装置製造業および集積回路製造業)の割合は20%程度です。国内全体では2%程度なので、10倍の開きがあります。
集積は熊本県内だけで完結していません。同ビジョンが載せた事業者ヒアリングには、「熊本は前工程(製造)、後工程は大分(テスト)、設計開発は福岡の流れ」という声が挙がっています。前工程はウェハーに回路を作り込む工程、後工程はそれを切り出して封止し検査する工程です。熊本の前工程が止まれば、大分の後工程へ回る仕掛品も減ります。
ルネサスの2工場は、同じ地震で再開時期が1週間近く離れました。この差が復旧の決まり方を示しています。
7月29日の第1報では、錦工場(球磨郡錦町)で一部天井パネルの落下と壁面のひび割れが確認されました。ただし空調と電力供給の用役に問題はなく、クリーンルーム環境は維持されています。川尻工場(熊本市)は壁面の亀裂と一部漏水が確認され、純水の供給を一時的に停止しました。純水はウェハーの洗浄に使う不純物を除いた水で、前工程は大量に消費します。
翌30日の第2報で、錦工場は7月29日夜より順次生産を再開しました。川尻工場はクリーンルーム内の初期安全確認を完了した段階で、設備および仕掛品への影響評価を進めており、再開は8月5日からの予定です。建屋の損傷は錦工場のほうが目に見える形で出ているのに、再開は錦が先でした。分けたのは用役の途切れと、仕掛品への影響評価に要する時間です。壁の割れ方では読めません。
もう一段時間がかかるのが装置の再調整です。最先端の半導体は線幅が10億分の1メートルの水準です。毎日新聞によれば、この水準の加工には生産前に入念な装置の設定が必要で、地震で設定に狂いが生じると復旧に時間を要することが多いといいます。JASMについてTSMCは、水や電力の供給と安全性に関わるシステムは正常に稼働しているとしています。そのうえで「製造装置の調整作業に一定の時間を要する」との見通しを時事通信に示しました。稼働状況について同社広報担当者が毎日新聞に述べたのは、「現時点で申し上げられる確定情報はない」でした。隣接地で建設中の第2工場は、工事をいったん中止したのち、安全を確認して再開したと時事通信は伝えています。
半導体製造装置の側も熊本にあります。東京エレクトロンは7月28日に東京エレクトロン九州の2事業所の稼働を止めて安全点検に入り、翌29日、社員全員の無事と建屋・設備に大きな被害がないこと、週明けからの本格稼働に向けて復旧を進めていること、業績への影響は軽微と判断したことを発表しました。この2事業所が作るのはコータ/デベロッパ、洗浄装置、3次元実装装置です。
ホンダ熊本製作所(菊池郡大津町)は7月28日夕から止まっています。7月29日時点のホンダの発表によれば、余震が続くなかで従業員とお取引先の安全確保を優先し、工場内一部の復旧作業のため7月31日まで稼働を停止する、とのことです。復旧作業の中身について、毎日新聞は一部で漏水や浸水があったと伝えています。
熊本製作所はホンダにとって、二輪車とパワープロダクツ(マリン製品を含む)を作る国内唯一の拠点です。50ccのコミューターから1800ccの大型モデルまでを生産しています。2008年に国内二輪生産を浜松から移し、北米・欧州からも大型モデルの生産を移した結果、同社の大型モデルはここでしか作られなくなりました。2023年5月の発表時点で、輸出先は57か国です。
四輪なら同じ車種を別の工場で作れる場合があります。ホンダの大型二輪にその逃げ道はありません。停止が長引けば、影響は国内の二輪販売にとどまらず、同社が輸出する国々に及びます。
2016年の熊本地震で各社が要した期間です。
| 会社・拠点 | 2016年に要した期間 | 出典 |
|---|---|---|
| ソニー系の半導体工場 | 生産再開まで約3か月半 | 毎日新聞 |
| 三菱電機 合志市の工場 | 生産停止 約1か月半 | 毎日新聞 |
| ホンダ 熊本製作所 | 震災前の生産体制に戻るまで5か月近く | 読売新聞 |
この3つを今回に当てはめる根拠は、いまのところありません。前提が違います。2016年にソニーはクリーンルームが崩れ、三菱電機は設備に被害が出ました。今回、日経新聞はホンダについて「16年のような生産設備などへの被害はみられない」と伝えています。実際、ルネサス錦工場は地震の翌日の夜に再開しています。
一方で、ソニー系の熊本テクノロジーセンターと三菱電機の2工場は、7月30日時点で再開のめどが公表されていません。復旧に要する期間は、被害の中身によって数日から数か月まで開きます。上の表はその幅を示すもので、今回の各社に当てはめる数字ではありません。
7月30日までに各社が出した発表は、工場の稼働状況と再開予定にとどまります。新車の納期と補修部品の供給に触れたものはありません。半導体の供給が滞れば国内の幅広い産業が打撃を受けかねない、という懸念は読売新聞が指摘している段階です。
先の2つの表で日程を挙げられたのは、ルネサス川尻・ホンダ熊本・東京エレクトロン九州・トヨタ自動車九州の4拠点だけです。このうちトヨタ自動車九州は、8月3日以降を動かすかどうかを7月31日に判断します。残りは日付そのものが出ていません。そしてこの4件にしても、熊本県内の部品拠点と半導体工場がどこまで戻るかで動く前提の日程であって、そこが遅れれば連鎖して後ろへずれます。
アイシン九州は代替生産の検討を進めています。トヨタ九州に納入する熊本県内のメーカーは、工場内の配管が破損したものの、30日から段階的に生産を再開できる見通しだと毎日新聞は伝えています。日本自動車工業会の佐藤恒治会長は7月29日、「自動車関連においても、販売店、サプライヤーなどを含め、多くの仲間が被害を受けておられます」とコメントを出しました。
九州にはトヨタ・日産・ダイハツの工場があり、2025年の生産台数は年間計124万台、下請け企業は1000社を超えると毎日新聞は報じています。止まったのはその一部です。ここまでは7月30日夜時点の内容です。8月以降の稼働判断と各社の続報は整備士オンラインが追います。
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