「万博の熱狂」が去った跡地に残されたのは、動かない「未来のバス」の群れと、巨額の負債だった――。
2026年7月17日、大阪市高速電気軌道(Osaka Metro)が夕方にひっそりと発表した1本のプレスリリース。それは、万博輸送の主役となるはずだったEV(電気自動車)バス事業の完全な破綻と、約67億円もの特別損失、そして会長ら経営トップ3名が引責辞任・降任に追い込まれたという、インフラ企業としては前代未聞の「大爆死」を伝えるものでした。
一民間企業の調達ミスという枠を遥かに超え、国と地方自治体が一体となって突き進んだ「国策政治ショー」の歪みを浮き彫りにするこの記事。その深層を、辛口な視点とともに紐解きます。
Osaka Metroが万博輸送やオンデマンドバスの「目玉」として華々しく導入したのが、福岡発のEVベンチャー「EVモーターズ・ジャパン(EVMJ)」製のEVバスと充電設備でした。
「環境先進都市・大阪」を世界にアピールするはずの車両でしたが、現場を待っていたのは悪夢のような日々でした。
今回のリリースで最も注目すべきは、再発防止策に書かれたこの一文です。
「現場の懸念やリスク情報が適切に経営判断につながるよう、組織風土及び情報共有の仕組みの見直し」
これは裏を返せば、「現場の技術者やドライバーは『このバスは危険だ、使い物にならない』と声を上げていたのに、経営陣がそれを黙殺し続けた」という事実に他なりません。
なぜ黙殺されたのか。そこには「万博の開幕日」という絶対的な締め切りと、「環境に配慮した万博」というお題目を何が何でも達成しなければならないという、強烈なトップダウンの圧力(政治的忖度)があったからです。安全第一であるべき鉄道・バス事業者が、政治的メンツを優先して「大本営発表」を繰り返した末の自滅でした。
この失敗は、Osaka Metro一社だけの責任ではありません。その背後には、政府(自民・公明政権)の「グリーン成長戦略」と、大阪維新の会が推進した「大阪・関西万博」という、2つの国策がはらむ根深い病理があります。
菅政権から現政権に至るまで、国は「脱炭素」「EVシフト」を掲げ、十分な技術的検証やインフラ整備を置き去りにしたまま、補助金という「アメ」をバラ撒いてEV導入を急がせました。技術的に未成熟なベンチャー企業に巨額の公金を流し込み、実証実験も不十分なまま実戦投入させたツケが、今回の「使用断念」です。
「いのち輝く未来社会のデザイン」を掲げた大阪万博。しかし、蓋を開けてみれば建設費は膨れ上がり、アクセス輸送も大混乱。その混乱のシンボルとして、この「走れないEVバス」が強行導入されました。政治家たちが描いた「お花畑の未来図」の帳尻を合わせるために、Osaka Metroは生贄に捧げられたと言っても過言ではありません。
今回、元パナソニック専務からOsaka Metroのトップへ招聘された「プロ経営者」の河井英明会長が辞任し、技術担当役員らが去ることになりました。
| 氏名 | 役職(旧) | 処分内容 |
|---|---|---|
| 河井 英明 | 取締役 会長 | 取締役を辞任(今後は相談役へ) |
| 堀 元治 | 常務取締役 交通事業本部長 | 常務を解かれ、副本部長へ降任 |
| 豆谷 美津二 | 取締役 技術担当 | 取締役を辞任 |
一見、厳格な処分に見えますが、河井氏は「相談役」として会社に残ります。また、何より問題なのは、この無謀な調達計画を外から煽り、予算を承認し、万博のプレッシャーをかけ続けた大阪市(株主)や政治家たちは、誰一人として痛みを伴う責任を取っていないという点です。
「補助金の返還」ということは、元々は我々が納めた税金がドブに捨てられたことを意味します。そして、Osaka Metroが抱えた巨額の赤字は、巡り巡って「将来的な運賃値上げ」や「不採算路線の減便」という形で、大阪市民や利用者に跳ね返ってきます。
新技術に挑戦すること自体は悪くありません。しかし、政治的な「見栄」と拙速な「国策」に振り回され、現場の警告を無視した結果がこのザマです。
「安全」という何にも代えがたい価値を、政治ショーの道具に魂ごと売り渡してしまったインフラ企業の悲劇。私たちはこの「67億円の教訓」を、単なる一企業の失敗談として笑い飛ばしてはなりません。