先月発注したゴム系部品の納期が、理由もはっきり告げられないまま2週間延びた。整備工場でそんな経験をされた方もいるかもしれません。
背景をたどると、行き着くのは中東のホルムズ海峡です。タンカーの通航隻数は平時93.7隻/日から5.9隻/日(2026年3月9〜15日平均、日本貿易振興機構〈JETRO〉)まで減りました。2026年4月13日午前0時すぎ(日本時間)には、米ホワイトハウス公式アカウントでトランプ大統領の海上封鎖指示声明が発表されています。
軍事・外交そのものは整備現場の管轄外です。ただ、遠い動きが補助金・部品・中古車輸出という3つの経路で整備業に届きつつある。順に見ていきます。
資源エネルギー庁の燃料油価格定額引下げ措置により、ガソリン・灯油・重油に48.1円/L、軽油も4月1日の暫定税率廃止後に同額、航空機燃料に19.2円/Lが適用されています。2026-03-24の閣議で予備費8,100億円のうち約8,000億円を財源に充当する決定があり、特別会計残高と合わせて1.08兆円が確保されました。
高市首相は4/7の会見で「日本は約8か月分(240日分)の石油備蓄を有する」と説明し、5月までに非ホルムズ・ルート調達が過半になる見通しを示しています。米国産原油は前年比4倍。備蓄は潤沢ですが、補助金の出口戦略は未定です。
整備工場にとっては、代車・引取納車の燃料費が読みにくい状態が続きます。顧客対応の面では、「今の店頭価格は補助金込み」という事実を知らないオーナーに対して、タイヤ空気圧・エアエレメント・オイル粘度など燃費に直結する整備提案は刺さりやすい時期です。
石油化学由来の素材は自動車1台に数百点。樹脂・合成ゴムだけでなく、塗料、接着剤、シール材、電線被覆まで含まれます。原料価格の15〜25%上昇は複数の業界分析による推計で、公式統計ではありません。ただサプライヤーからの値上げ通告が続いている現状とは整合しています。
紅海でのフーシ派攻撃と重なり、欧州・中東・アジア間の海運は喜望峰経由への迂回が定着しつつあります。10〜14日の航海日数増は、発注から入荷までのリードタイムにそのまま跳ね返ります。
現場でまず影響が見えるのは、ホース類、ブッシュ、シール、ウェザーストリップといったゴム・樹脂系の補修部品でしょう。見積有効期限を従来より短く設定し、その理由を顧客に先に伝えておくと、後日の価格調整での摩擦が減ります。JIT前提で在庫を絞っていた工場は、消耗頻度の高い品目から発注タイミングを見直す時期に入っています。
戦争リスク保険料は通常、船舶価値の0.2〜0.3%程度でした。封鎖後に0.5%超まで急騰し、現在は引受停止に至ったとする業界分析があります(保険業界公式の数値ではなく、ロンドン国際保険引受協会〈IUA〉や国際海上保険連合〈IUMI〉のリリースをもとにした推計)。2026年3月3日に国際保険引受協会が危険地域リストにペルシャ湾を追加、3月5日に国際海上保険連合が中東情勢に関するプレスリリースを発出しました。米国際開発金融公社は3月6日、湾岸諸国の海上再保険事業への200億ドル支援計画を発表しています。
整備業は海上保険の直接の契約者ではありません。ただ部品・車両の輸送コストがこの保険料上昇を最終的に吸収する構造です。サプライヤー・商社からの値上げ通告の裏側にある事情を掴んでおくと、仕入れ先との交渉や顧客説明の精度が変わります。
2025年、日本からUAEへの中古車輸出は22万3,999台・約1,114億円で国別首位でした。UAEのジェベル・アリ港は年間約96万台を処理する世界最大級の自動車トランジット拠点で、ここを経由してアフリカや中央アジアへ再輸出される車両が大量にあります。
ジェベル・アリ港はホルムズ海峡の内側です。海路アクセスが実質遮断され、一部の日本側業者はUAE向け受注を停止しています。中東ハブ経由のアフリカ向け輸出も停滞。国内中古車市場では輸出需要の減少により一部価格帯で値下がり傾向にあるという報道があります(日本経済新聞)。
輸出前整備を請け負ってきた工場では、受注が細り納車待機中の車両が滞留するケースが出ています。下取査定・買取は、オークション相場の下落リスクを織り込んだ提示レンジに更新しておきたいところです。代替商流としてアフリカ直送や東南アジア向けへシフトを模索する業者も出始めており、中古車輸出と関わりの深い工場は取引先業者の動向を把握しておくと判断が早くなります。
経産省は2026-03-16に民間備蓄義務の引き下げと国家備蓄放出を開始し、03-24には03-26から国家備蓄原油を約1か月分追加放出すると発表しました。外務省はクウェート・サウジ東部・バーレーン・カタール・UAE・オマーンを危険情報レベル3(渡航中止勧告)に引き上げています。中古車業者で現地出張がある場合は確認が必要です。
防衛省は03-24の大臣会見でホルムズ海峡・ペルシャ湾内への自衛隊派遣は未実施と説明し、外相は停戦成立後の掃海艇派遣の可能性に言及しました。03-19には日英仏独伊蘭加などの首脳共同声明が発出され、4/1時点で35か国が署名。イランの商業船舶攻撃を最強の言葉で非難しています。
過去の燃料高騰期と同じく、HV・EV・PHEVへの乗り換え問い合わせが整備工場にも増える可能性があります。ただ「EVに切り替えたい」と口にする顧客の9割は当面ガソリン車を乗り続けるのも経験則です。現行車の燃費最大化に関わるプラグ、エアクリーナ、オイル、タイヤ周りの整備提案は、EV問い合わせ対応と並行して準備したいところ。
HV・EV整備の対応力という面では、12V補機バッテリー交換、インバーター点検、高電圧遮断手順の社内再研修を4〜5月内にスケジュールしておくのが現実的です。中古HVの駆動用バッテリー健全性診断を整備メニューに持っている工場は、問い合わせ増に対して動きやすい立場になります。
状況は流動的で、停戦報道のたびに市況が動いています。手を出せる範囲を絞ると次の4点です。
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掲示板では、同じ逆風の中で動いている整備士・整備工場の皆さんと情報を持ち寄れます。「うちはこの部品が先週から入らない」「UAE向けの取引先から打ち切りの連絡が来た」——そんな一行が、別の工場さんの来週の判断を助けると我々は信じています。
注記